インバウンドにおける政府の方針や取り組みと今後について

インバウンドという言葉がいつの間にか社会に浸透し、今や日本の経済を支える大きな柱ともなっています。インバウンドの増加には、近隣諸国の経済発展による旅行熱の高まりや、新しい価値観の出現など多くの要因があります。

日本政府もこのインバウンドの需要を重要視し、政策として取り組んできました。今回はインバウンドにおける政府の方針や取り組みについて解説し、今後の展開について考えていきます。

訪日外国人の推移

まずは近年の訪日外国人の人数がどのように推移してきたかを見ていきましょう。

これまでの訪日外国人の推移

日本政府観光局(JNTO)のデータによると[1]
2016年:24,039,700人
2017年:28,691,073人
2018年:31,191,856人
2019年:31,882,049人

はじめて1000万人を突破したのが2013年ということから考えると、3年後の2016年には倍増、2019年には3000万人突破、と驚異的な伸びであることがわかります。

国別に見てみると、以下のようになっています。(2019年11月の人数)
中国:710,234人
台湾:348,269人
韓国:247,959人
アメリカ:144,498人

もっとも多い国は中国で、2019年11月のひと月だけでなんと70万人以上の人が来日しています。

2020年の推移

このように訪日外国人数は右肩上がりに増加してきましたが、2020年に入って大きな変化が見られました。

2020年1月の訪日外国人数は2,661,022人で、前年同月比−1.1%で微減となりました。多くの国は昨年同月比で増加していますが、韓国からの訪日客が60%近く減少したことが原因と思われます。

この頃、新型コロナウイルス感染症が流行の兆しを見せ始め、1月27日には中国政府が海外への団体旅行を禁止しました。その後、感染は中国のみならず世界へと拡大していったことから、海外旅行への影響は避けられず、2月には日本への訪日外国人客の数は激減することとなりました。

インバウンドにおけるこれまでの政府の方針

ではここで、これまで政府がどのようなインバウンド政策を掲げ、目標を定めて進めてきたのかを振り返ってみましょう。

訪日外国人旅行者数の目標

2016年に政府が取りまとめたのが、『明日の日本を支える観光ビジョン』[2]という構想です。「世界が訪れたくなる日本へ」というスローガンのもと、観光先進国をめざすべく様々な施策が打ち出されました。

この構想では、従来の訪日外国人の目標数を、2020年に4000万人に上方修正し、2030年の目標数字は6000万人としています。

訪日外国人旅行消費額の目標

訪日外国人客が増えると、インバウンド消費が増大し、日本経済の成長につながります。『明日の日本を支える観光ビジョン』では、インバウンドの成長が安倍内閣の掲げるGDP600兆円へ大きく貢献することを期待しています。

また、訪日外国人の日本での旅行消費額について、
・2020年には1人当たり単価を20 万円
・2030年には1人当たり単価を25 万円
にするという目標を掲げました。

このためには日本での滞在日数を増加させるのも方法のひとつであり、長期滞在したくなるような魅力的な観光資源作りや、富裕層などの新たな市場獲得を目指す具体的な施策が提案されています。

地方の外国人延べ宿泊者数の目標

この構想では大きなキーワードとして「地方創生」があげられています。そのためには都市圏だけでなく、地方部へも外国人旅行者を増加させ、宿泊や飲食を通じて消費をしてもらう必要があります。

・2020年には、延べ宿泊者数の都市圏と地方部の比率を50%に
・2030年には地方部の比率を60%まで高める
という目標のもと、地方部での観光産業の発展を狙っています。

外国人リピーター数の目標

成長を続けていくために必要な要素のひとつはリピーターであることから、リピーター数の目標も設定されました。

・2020年にはリピーター数2400万人
・2030年には3600万人
という数字を掲げています。

訪日外国人観光客にリピーターになってもらうためには、観光の質の向上と満足度アップが必須であり、具体的な施策が多く練られています。

以上のような目標を掲げ、官民一体となって努力をしているところですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、目標を継続することは難しいかもしれません。今後の動向については注目していきたいところです。

インバウンドにおけるこれまでの政府の取り組み

では次に、政府がこれまでにどのような視点からインバウンドを捉えてきたかをみていきましょう。

インバウンド観光促進

先述した『明日の日本を支える観光ビジョン』では、以下の3つの視点が述べられています。

【観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に】
公的施設、文化財などの今ある資源を、より魅力的なものにし、観光資源としての価値を高めていこうとするものです。

国立公園は、保護する区域と観光活用する区域に分け、観光活用区域では滞在型アクティビティなどを充実させることで体験・活用型の空間へと変貌させます。

また、地方創生の一環として、全国の市区町村で景観計画の策定を促し、日本全体をあげて観光立国を目指すとしています。

具体的には、
・地方部の農山漁村において自然や生活を満喫できる滞在型観光の確立
・地方の商店街の町並み整備
・優れた名産品の発掘
などがあるようです。

【観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に】
観光を日本の基幹産業とすべく、古い規制や制度を抜本的に見直し、新たな取り組みを積極的に行おうというものです。例えば、通訳案内士のサービス供給拡大や、旅行業者が商品を企画・提案しやすい制度の拡充など、緩和規制も見据えています。

また富裕層などの新しい市場の開拓や、MICE(会議や展示会などのビジネスによる人の移動を伴う行事)誘致を狙うといった戦略も掲げられています。

【すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に】
Wi-Fiをはじめとした通信環境、交通機関の簡単なインターネット予約、キャッシュレス決済の浸透、他言語による情報発信などソフトインフラの整備により、世界一快適な滞在を目指します。

それだけではなく、「世界一安全な国、日本」を体感できるように、警察や医療機関といった公共事業、福祉施設においても、外国人と円滑なコミュニケーションが取れるような施策も充実してきました。

外国人向けのお得な鉄道チケット「ジャパンレールパス」などをかんたんに購入できるようにしたり、地方空港の機能強化をしたりすることで、日本各地へのアクセスをより便利にします。

今後の見通し

このように政府としても、観光を日本の基幹産業に押し上げるとの目標で取り組んできました。ここにきて、訪日外国人数が2020年2月で1,085,100人、3月で193,700人、4月の時点ではかなり減少して、2,900人(日本政府観光局(JNTO)[1])と、新型コロナウイルス感染症による観光業への影響が大きくなり、今後の具体的な見通しを立てづらい状況になっています。

しかし、今までも幾度かピンチはありました。2009年のリーマンショック時にも訪日外国人数は-18.9%とぐっと落ち込み、2011年の東日本大震災のときには-27.8%と、その減少の幅はさらに大きなものでした。(国土交通省調べ[3])

そのときも日本は訪日外国人数の早期回復に向けて、訪日旅行促進緊急対策事業や言語バリアフリー化事業などさまざまな対策を行いました。

政府、民間が力を合わせた努力の結果、落ち込みを取り戻し、さらに成長を続けてきたのです。今回も厳しい状況には変わりありませんが、V字回復に期待をして乗り越えていきましょう。

まとめ

かつては訪日外国人の数も横ばいで、閑散とした観光地も少なくなかった時代もありましたが、ここ10年近くのインバウンドの急成長には目をみはるものがあります。

民間の努力はもちろんのことですが、政府が政策の一環として観光業を押し出したことも、大きな飛躍の一因です。

現在、観光業は厳しい状況にありますが、今後のV字回復を期待して、前向きに進んでいきたいものです。

▼出典
1. 日本政府観光局(JNTO)「月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)」
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

2. 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議『明日の日本を支える観光ビジョン』 
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/pdf/honbun.pdf

3.国土交通省「訪日外国人観光客の回復に向けた取組みについて」
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2012/0120_2-3_kokudo.pdf

 

(上記掲載の内容は、掲載日時点のものです。あらかじめご了承ください。)