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観光業はどうなる?インバウンドにおける政府の取り組みや方針

(更新日:2021.2.10)

外国人観光客の増加により、インバウンドという言葉がいつの間にか社会に浸透し、今や日本の経済を支える大きな柱です。観光業界におけるインバウンドは、インバウンドツーリズム(国内に入ってくる旅行)という意味で使われています。

インバウンドの増加には、近隣諸国の経済発展による旅行熱の高まりや、新しい価値観の出現など多くの要因があります。

日本政府もこのインバウンドの需要を重要視し、政策として取り組んできました。今回はインバウンドにおける政府の方針や取り組みについて解説し、今後の展開について考えていきます。

訪日外国人の推移

まずは近年の訪日外国人の人数がどのように推移してきたかを見ていきましょう。

これまでの訪日外国人の推移

日本政府観光局(JNTO)のデータによると[1]
2016年:24,039,700人
2017年:28,691,073人
2018年:31,191,856人
2019年:31,882,049人

はじめて1000万人を突破したのが2013年ということから考えると、3年後の2016年には倍増、2019年には3000万人突破、と驚異的な伸びであることがわかります。

国別に見てみると、以下のようになっています。(2019年11月の人数)
中国:710,234人
台湾:348,269人
韓国:247,959人
アメリカ:144,498人

もっとも多い国は中国で、2019年11月のひと月だけでなんと70万人以上の人が来日しています。

2020年の推移

2019年まで訪日外国人数は右肩上がりに増加していましたが、2020年に入り大きな変化が見られました。

2020年の訪日外国人の累計は4,057,196人に留まり、14ヶ月連続で前年同月を大きく下回ったのです。

これは、新型コロナウイルス感染症が流行の兆しを見せ始め、2020年1月27日には、中国政府が海外への団体旅行を禁止したのがひとつの理由でもあります。

その後、新型コロナウイルスの感染が世界へと拡大していったことから、海外旅行への影響は避けられず、日本への訪日外国人客の数は激減することとなりました。

日本では緊急事態宣言が発令され、外出自粛を呼びかけている中、多くの国では、法的強制力のあるロックダウンを実施しています。

そのような状況の中、日本とアジアの一部の国、地域では、留学や家族などの入国の緩和やビジネスでの往来は再開されたものの、日本への直行便は大幅な運休や減便となり、訪日外国人の累計数は前年比-87.1%で、1998年以来最少を記録したのです。

インバウンドにおけるこれまでの政府の方針

ではここで、これまで政府がどのようなインバウンド政策を掲げ、目標を定めて進めてきたのかを振り返ってみましょう。

訪日外国人旅行者数の目標

2016年に政府が取りまとめたのが、『明日の日本を支える観光ビジョン』[2]という構想です。「世界が訪れたくなる日本へ」というスローガンのもと、観光先進国をめざすべく様々な施策が打ち出されました。

この構想では、従来の訪日外国人の目標数を、2020年に4000万人に上方修正し、2030年の目標数字は6000万人としています。

訪日外国人旅行消費額の目標

訪日外国人客が増えると、インバウンド消費が増大し、日本経済の成長につながります。『明日の日本を支える観光ビジョン』では、インバウンドの成長が安倍内閣の掲げるGDP600兆円へ大きく貢献することを期待しています。

また、訪日外国人の日本での旅行消費額について、
・2020年には1人当たり単価を20 万円
・2030年には1人当たり単価を25 万円
にするという目標を掲げました。

このためには日本での滞在日数を増加させるのも方法のひとつであり、長期滞在したくなるような魅力的な観光資源作りや、富裕層などの新たな市場獲得を目指す具体的な施策が提案されています。

地方の外国人延べ宿泊者数の目標

この構想では大きなキーワードとして「地方創生」があげられています。そのためには都市圏だけでなく、地方部へも外国人旅行者を増加させ、宿泊や飲食を通じて消費をしてもらう必要があります。

・2020年には、延べ宿泊者数の都市圏と地方部の比率を50%に
・2030年には地方部の比率を60%まで高める
という目標のもと、地方部での観光産業の発展を狙っています。

外国人リピーター数の目標

成長を続けていくために必要な要素のひとつはリピーターであることから、リピーター数の目標も設定されました。

・2020年にはリピーター数2400万人
・2030年には3600万人
という数字を掲げています。

訪日外国人観光客にリピーターになってもらうためには、観光の質の向上と満足度アップが必須であり、具体的な施策が多く練られています。

以上のような目標を掲げ、官民一体となって努力をしているところですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、目標を継続することは難しいかもしれません。今後の動向については注目していきたいところです。

インバウンドにおけるこれまでの政府の取り組み

では次に、政府がこれまでにどのような視点からインバウンドを捉えてきたかをみていきましょう。

インバウンド観光促進

先述した『明日の日本を支える観光ビジョン』では、以下の3つの視点が述べられています。

【観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に】
公的施設、文化財などの今ある資源を、より魅力的なものにし、観光資源としての価値を高めていこうとするものです。

国立公園は、保護する区域と観光活用する区域に分け、観光活用区域では滞在型アクティビティなどを充実させることで体験・活用型の空間へと変貌させます。

また、地方創生の一環として、全国の市区町村で景観計画の策定を促し、日本全体をあげて観光立国を目指すとしています。

具体的には、
・地方部の農山漁村において自然や生活を満喫できる滞在型観光の確立
・地方の商店街の町並み整備
・優れた名産品の発掘
などがあるようです。

【観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に】
観光を日本の基幹産業とすべく、古い規制や制度を抜本的に見直し、新たな取り組みを積極的に行おうというものです。例えば、通訳案内士のサービス供給拡大や、旅行業者が商品を企画・提案しやすい制度の拡充など、緩和規制も見据えています。

また富裕層などの新しい市場の開拓や、MICE(会議や展示会などのビジネスによる人の移動を伴う行事)誘致を狙うといった戦略も掲げられています。

【すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に】
Wi-Fiをはじめとした通信環境、交通機関の簡単なインターネット予約、キャッシュレス決済の浸透、他言語による情報発信などソフトインフラの整備により、世界一快適な滞在を目指します。

それだけではなく、「世界一安全な国、日本」を体感できるように、警察や医療機関といった公共事業、福祉施設においても、外国人と円滑なコミュニケーションが取れるような施策も充実してきました。

外国人向けのお得な鉄道チケット「ジャパンレールパス」などをかんたんに購入できるようにしたり、地方空港の機能強化をしたりすることで、日本各地へのアクセスをより便利にします。

今後の見通し

このように政府としても、観光を日本の基幹産業に押し上げるとの目標で取り組んできました。ここにきて、訪日外国人数が2020年2月で1,085,100人、3月で193,700人、4月の時点ではかなり減少して、2,900人(日本政府観光局(JNTO)[1])と、新型コロナウイルス感染症による観光業への影響が大きくなり、今後の具体的な見通しを立てづらい状況になっています。

しかし、今までも幾度かピンチはありました。2009年のリーマンショック時にも訪日外国人数は-18.9%とぐっと落ち込み、2011年の東日本大震災のときには-27.8%と、その減少の幅はさらに大きなものでした。(国土交通省調べ[3])

そのときも日本は訪日外国人数の早期回復に向けて、訪日旅行促進緊急対策事業や言語バリアフリー化事業などさまざまな対策を行いました。

政府、民間が力を合わせた努力の結果、落ち込みを取り戻し、さらに成長を続けてきたのです。今回も厳しい状況には変わりありませんが、V字回復に期待をして乗り越えていきましょう。

今後の訪日プロモーション

各国でも主にビジネスでの往来など国境開放の動きが進んでいますが、まだまだ感染者が多いコロナ禍の状態で海外旅行の再開は手探りです。

日本でも新型コロナウイルスの影響を受け、2021年の訪日プロモーションにかかる予算は、前年から15%減の73億円となりました。

その中で日本政府観光局は、各国の状況を踏まえたうえで、今後の訪日プロモーションを明らかにしています。

訪日プロモーションは3つのステップに分けられており、ステップ1は外出制限や自粛が継続している段階、ステップ2は入国制限が徐々に解除されている段階、ステップ3は受入環境が完全に整った段階としています。

ステップ1.インバウンドへの情報発信

外出制限や自粛が継続しているステップ1では、インバウンドへの情報発信に力を入れていきます。具体的には、日本政府観光局によるデジタルマーケティングを活用し、先進的プロモーションを実施する予定です。

日本のファンへ向けたSNSでの情報発信を継続するとともに、ウェビナーを開催したBtoB向けの情報発信も行います。

バーチャル体験の提供をはじめ、一般消費者参加型の企画を実施することでエンゲージメントを深めて、近い将来の訪日を夢見てもらえるような取り組みを計画中です。

また、日本政府観光局のサイトやアプリでは、安全と安心の情報を発信していくと明記しています。

ステップ2.インバウンド受け入れ環境の整備

日本と対象となる国で国内旅行が再開し、日本への入国制限が段階的に解除されているステップ2では、ステップ1で実施するインバウンドへの情報発信に加え、トレンドの変化に対応した旅行商品の造成支援や訪日旅行のイメージ訴求を積極的に行います。

また、日本の国内旅行の盛り上がりが訪日旅行安心と安全の一番のメッセージになると捉えており、各地域での感染防止ガイドラインの遵守徹底の呼びかけと、現状を日本政府観光局のサイトやアプリを通じて発信していく方針です。

ステップ3.インバウンド誘客

観光客の入国制限が完全に解除されているステップ3では、インバウンドの受入環境が整った状況であると想定しています。

ステップ1〜2の取り組みに加え、旅行会社や航空会社との誘客プロモーションに力を入れていく方針です。メディアやインフルエンサーも積極的に活用し、段階的にプロモーションを行い、訪日外国人数を増やします。

とくに、メディアの活用に関しては、東京オリンピックをチャンスと捉えており、インバウンドの復活の起爆剤として積極的に利用していく見解です。

インバウンド回復のための政府の施策

政府は、インバウンド回復のために3ステップの方針を固めているものの、観光庁の2021年度の予算は、全体で408億円に決定しました。これは、前年度2020年と比べると40%減という大幅な減少です。

限られた予算の中で、主に次のような4つの施策を打ち出しています。

感染防止対策の徹底

安心して日本へ来てもらうためには、何よりも感染防止対策を徹底しなければなりません。まずは、各地域で宿泊施設や旅行業者など観光関連事業者が作成した「感染拡大予防ガイドラインの実施」を徹底してもらうよう呼びかけています。

さらに、宿泊関係業界や旅行関連業界、貸切バス、タクシーなどの業界に対して、業界団体が感染症の専門家から助言を受け作成した業種別ガイドラインを作成しています。これは、各地域や場面ごとの留意点や対策など細かく規定されたものです。

そして、これらのガイドラインは、作成して終わりではなく、最新の状況や知見を踏まえ、随時見直していくものとしています。

また、サーモグラフィーによるモニタリング設備の導入や、非接触体温計の導入、換気設備の導入など、感染拡大防止策の支援も行う方針です。

これらの取り組みにより、「安全で安心な新しい旅のスタイル」を普及させ、安心・安全の日本を認知してもらいます。

ホテルや旅館などの観光拠点の再生

上質な滞在環境を実現し、日本の魅力と収益力を高めていくため、施設改修補助を行います。この補助は、宿泊施設や飲食店、土産物店を対象に負担割合を2分の1にするものです。

さらに、宿泊施設の経営革新を推進するため、専門家から支援を受けられる支援制度や融資制度も大幅に拡充されます。

また、街の景観を大きく左右する廃屋の撤去や、新たに支援枠を設け観光地としての景観を一挙に改善できるような施策なども計画されています。

観光施設全体の再生をしていくために、複数事業者の連携や協業促進も積極的に行っていきます。

たとえば、宿泊施設の事業継承や統合による、さらなる魅力と収益力の向上などです。また、小規模宿泊事業者が協業した分散型ホテルの創設などもあげられます。複数の宿泊施設がひとつのホテルとして運営する取組や飲食施設を共有するなど、複数の宿が連携した取り組みを目指します。

宿泊施設経営者側でも、ほかの事業者と連携し新たなビジネスを創出できれば、今後の事業継続が可能になり、収益力も強化できるでしょう。

滞在コンテンツの充実

効果的にインバウンドを誘客するには、訪日外国人が日本に来て楽しかった、また来たいと思ってもらえるように滞在コンテンツを充実させる必要があります。

観光庁は、インバウンドにより長く日本に滞在してもらえるように、滞在コンテンツの充実を図っています。

ひとつは、交通や産業との連携です。船が運行していない夜の時間帯に、無人島の貸切ツアーやサンライズツアーを実施するといった、これまで一般的な観光客が体験できなかった漁の体験ツアー、通常は公開されていない工場の見学や職業体験などを実施します。

今まで観光客向けに公開されていない分野にコンテンツを広げていくことで、地域に眠る観光資源の磨き上げにもつながります。観光庁は、観光資源を高付加価値化し、長期滞在型コンテンツに磨き上げる取り組みを推進していくと明示しています。

もうひとつは、自然を活用したコンテンツの充実です。密を避けながら日本の豊かな自然と文化が体験できるアドベンチャーツーリズムや、上質なスノーリゾートの整備なども推進していきます。

また、日本の歴史的資源であり日本観光の醍醐味とも捉えられる、城や寺を利用した宿泊や文化体験も推進しており、全国に点在する城や社寺で個性的な宿泊設備を整備する方針です。

インバウンド受け入れ環境の整備

また、依然としてインバウンド受け入れ環境の整備は課題です。

たとえば、英語のみならず中国語や韓国語など多言語に対応した案内標識の設置やデジタルサイネージの整備です。文化遺産や国立公園などには、魅力的でわかりやすい多言語に対応した解説看板を実現するとしています。

さらに、ストレスなく快適に日本旅行を楽しんでもらえるように、無料Wi-Fiの整備も充実させる方針です。

無料Wi-Fiが簡単に使える環境であれば、気軽にネットでの検索が可能になり、おすすめスポットの検索はもちろん、地図アプリや翻訳アプリも使いやすくなります。

宿泊施設にも無料Wi-Fiを導入することで、仕事もしやすくなり長期滞在につながる手助けとなるでしょう。

まとめ

かつては訪日外国人の数も横ばいで、閑散とした観光地も少なくなかった時代もありましたが、ここ10年近くのインバウンドの急成長には目をみはるものがあります。

民間の努力はもちろんのことですが、政府が政策の一環として観光業を押し出したことも、大きな飛躍の一因です。

現在、観光業は厳しい状況にありますが、今後のV字回復を期待して、前向きに進んでいきたいものです。

▼出典
1. 日本政府観光局(JNTO)「月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)」
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

2. 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議『明日の日本を支える観光ビジョン』 
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/pdf/honbun.pdf

3.国土交通省「訪日外国人観光客の回復に向けた取組みについて」
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2012/0120_2-3_kokudo.pdf

 

(上記掲載の内容は、掲載日時点のものです。あらかじめご了承ください。)